「マスゴミ」について

Yosyanさんのブログで、「マスゴミ」という言葉が取り上げられていた。

礼に基づいて発言すると言っても、堅苦しい言葉を並べるという意味ではありません。笑いを取る表現や、おふざけてきな発言も礼の範囲に余裕で含まれます。それでも礼は厳然と存在します。どこに存在するかと言えば、他者を故無く傷つける発言です。
そんな事を言えば批判はできなくなると言われそうですが、批判するという行為はもちろん礼の範疇に含まれます。問題は批判する表現法です。昨日コメント欄で問題になった「マスゴミ」という言葉も禁止用語ではありませんが、こういう厳しい言葉を使うためにはそれだけの配慮、表現法が求められるということです。
他者への厳しい指摘、峻烈な批判は行なってもまったく差し支えはありませんが、表現法には十分な配慮を施すのが礼です。暴言、極言の使用も可能ですが、使うからには使うだけの理由説明が求められると考えています。暴言、極言を並べただけの批判は単に相手の感情を逆なでするだけで、そこから何も生まれません。批判とは自分の不満を表現する部分もありますが、相手に聞いてもらう部分も存在するからです。

基本的には、まったく同意する。
私の考えを若干述べておくと、批判というのは評価の結果に他ならないわけだから、その結果自体が礼を欠いているということはありえないと思う。評価自体は様々であるとしても、批判される、笑われる、軽蔑される、馬鹿にされる行為というのは存在する。批判される、笑われる、軽蔑される、馬鹿にされるに値する行為をしておきながら、実際に批判され、嘲笑され、軽蔑され、馬鹿にされたときに、それを「失礼だ」というのはわがままであろう。もちろん、批判その他に値する行為だからといって、度を超した表現はよろしくない。淡々と批判その他を行えばよいだけである。また、批判その他に値しない行為に対して、批判その他を行った場合は、それ自体が批判その他の対象になるのは言うまでもない。
さて、Yosyanさんのエントリーで取り上げられた「マスゴミ」という用語、これは救急医療における受け入れ不能問題に対するマスコミの「たらい回し報道」、特に前日のエントリー(NHKの「たらい回し」報道姿勢)に対するNHKからの回答要旨から出たもののようである。

たらい回しは、医療システムに対する非難である。救急病院の指定を受けながら受け入れないことで被害者を出していることに対する非難である。システムの責任については、病院が責任を負わなければならない。
(「新小児科医のつぶやき」の常連コメンテーターであるMed_LawさんがNHKに電凸した際のNHKからの回答要旨)

上記見解について、「たらい回し」という表現の不適切さはぎりぎり受け入れるにしても(「ごぼう抜き」のような例もあるし)、それを病院側の責任だとするのは論外である。このような姿勢で行われた報道がどのような報道となるのかは推して知るべしであるし、批判は免れない、ゴミ扱いされても仕方のないトンデモ意見である。いや、その見解の有害さを考慮すれば、ゴミ扱いした側が「謝れ!ゴミに謝れ!」と言われかねない。従って、私としてはそのような報道、及び、それをした報道機関がゴミ扱いされることに違和感はないし、ゴミ扱いされた側が「ゴミ扱いするな!失礼だ!」というのはわがままであると思う。ただ、私としてはこのようなケースで「マスゴミ」という単語を用いるのは違和感を感じてしまう。
その違和感の原因について自分なりにいろいろ考えてみた。たとえば「ひも医者」という言葉があるが(*1)、ひも医者と評価されるに値する医者に対して「ひも医者」という言葉が使われても、私は違和感を感じない。しかし「マスゴミ」と評価されるに値するマスコミに「マスゴミ」という言葉が使われると違和感を感じる。この理由は、両者の指す範囲の違いにあると思う。
「ひも」と評価されるに値する医者に対して「ひも医者」という言葉が使われたとしても、その評価は当該医者に対するものにとどまり、すべての医者が「ひも」だという意味には取れない。しかし、「ゴミ」と評価されるに値するマスコミに対し「マスゴミ」という言葉が使われた場合、それは当該マスコミを指すだけにとどまらず、「すべてのマスコミがゴミなのだ」という意味に取れてしまう。もちろんこれは私の感じ方であるし、それは「マスゴミ」という言葉が比較的最近出来た言葉であることに理由があるだろう。「マスゴミ」という言葉が「ゴミ同然の記事を垂れ流すマスコミを指す言葉で、すべてのマスコミを論うものではない」という意味として定着すれば、そのような違和感はなくなると思うし、そのような意味で定着しているにもかかわらず、私が「すべてのマスコミをゴミ扱いしたものだ」と読解したとすれば、それは私の誤読に他ならない。
私の思い違いかもしれないが、「マスゴミ」という言葉は前記の意味で定着しているとは言い難いと思う。それを思えば、救急医療に関する報道でゴミ同然の記事を垂れ流しているマスコミに対し、「マスゴミ」という言葉を使うのは、救急医療に対する報道で「ゴミでない、正しい報道」を行っているマスコミ(*2)に対して失礼であるし、使うべき言葉でないと思う。


(*1)…物が「ひも」だけに、こいつに引っかかると確実に死ぬ。やぶ医者よりもっとひどい医者。ただし、現実にはそのような医者はいないと思う。コントやギャグ漫画など、笑いを取る場面で使われる単語と思われる。
(*2)…そのような報道機関があるかどうかは知らない。もしかしたら、ないかもしれない。