もうちょっと対応を考えてほしい

去年のプロ野球セントラルリーグペナントレースは巨人の歴史的大逆転優勝で幕を閉じました。最終的には最終戦を残して優勝が決まったわけですが、展開によっては巨人が全日程を消化しても優勝が決まらない事態もありえました。巨人が全日程を終了して阪神と同率で並び、優勝の行方は阪神終戦阪神中日戦の結果に委ねられる展開です。この場合、最終戦に中日が勝つか引き分けで巨人の優勝、阪神が勝てば阪神の優勝になります。
実際はそうならなかったわけですが、仮にそうなっていれば巨人ファンは阪神中日戦で中日の勝利(あるいは引き分け)をひたすら願ったであろうことは想像に難くありません。もちろん中日は巨人を優勝させるために試合しているわけではないので、もしその展開で中日が勝利し、結果巨人の優勝が決まったとしても、それは中日が自チームの勝利のために戦ったことによって生じた副作用に過ぎないのですが、巨人は先に全日程を終了していますから、優勝を実現させるためにはそのような副作用に頼るしかないわけで、そのような副作用が起こることを願うことは当然といえましょう。
もちろん中日だって、CSや来季以降のことがありますから、主力を休ませたり調整登板させたりといったことはあるでしょうし、また、今季で引退する選手の顔見せ出場を行なったりすることもあるでしょう。そして、そのようなことをしたために試合に負けてしまい、結果巨人が優勝を逃すこともありえます。中日は巨人のために試合しているわけではないですから、そうなったらそうなったで仕方のないことです。
で、先日、このような報道がありました。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/090125/crm0901252321020-n1.htm
 昨年12月、山梨県北杜市の飯田教典さん=当時(61)=が暴行され死亡、男女5人が傷害致死罪で起訴された事件をめぐり、傷害致死罪の適用に納得のいかない飯田さんの長女(31)が、北杜署員から「何が納得できないんだ」などとののしられていたことが25日、分かった。
 長女は昨年12月に始まった「被害者参加制度」を利用して刑事裁判に出廷し意見陳述する意向を持っており、公判前に事件の説明を受けようとした。長女の兄(34)が県警に抗議。県警は発言の事実を認め、遺族に謝罪した。
 長女によると、今月17日に北杜署を訪れ、刑事課の署員に「殺人罪が適用されないことは納得できない」と伝えると、署員は「何が納得できないんだ。殺意がないから殺人じゃない。警察は検事の言う通りに動いているんだ」と強い口調でののしった。

刑事裁判というのは遺族の復讐のための場所ではありません。検察官は、被害者あるいは遺族の立場を代弁する立場ではありますが、あくまで公益の代表者であって被害者あるいは遺族の代理人ではないのです。検察官には真実義務・客観義務というものがありますから、たとえ遺族が殺人罪での起訴を願っていたとしても、証拠を精査したところ殺人の事実が認められない(傷害致死の事実しか認められない)となれば、傷害致死罪で起訴するのは正しい行為です。
しかし一方、遺族の側が加害者に対し強い処罰感情を持っているとすれば、その願いは刑事罰をもってしか叶えられない願いであり(被害者に対し加害者に責任を取らせるための制度は存在するが、それは被害者の受けた損害を賠償させるに留まり、処罰を与えることはない)、その場合より重い法定刑を有する罪で起訴されることを願うこともまた当然のことでしょう。そこで「刑事裁判は遺族の復讐の場ではないのだから、被告人の処罰を願ってはいけない」というのは「中日は巨人のために戦っているわけではないのだから、中日の勝利を願ってはいけない」というぐらいナンセンスです。
そう考えると、記事にある警察官の発言「何が納得できないんだ。殺意がないから殺人じゃない。警察は検事の言う通りに動いているんだ」は、理屈の上では正しいですが、遺族に向かって言う言葉ではないと思います。問い合わせた方は検察と警察の違いを理解しておられなかったようですので、もしかしたら警察官に対して無理難題を押し付けるようなことがあったのかもしれません。しかし遺族が冷静になれないのは当たり前ですから、そのような場合でも遺族感情に配慮した対応をとってもらいたかったと思います。