人質司法

福島大野病院事件の加藤医師の無罪が無事確定しました。

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 福島県大熊町の県立大野病院で2004年、帝王切開で出産した女性=当時(29)=が死亡した事故で、業務上過失致死などの罪に問われた産婦人科医加藤克彦医師(40)に無罪を言い渡した福島地裁判決が3日、控訴期限を迎え、4日午前0時で無罪が確定した。

すでに検察が控訴しないといっていましたのでその通りの結果となったわけですが、加藤医師及び支援者の皆様、お疲れ様でした。
この裁判では様々な問題点が指摘されていましたが、その中の一つに加藤医師の逮捕について、その不当を問うものがあります。

福島県立大野病院事件判決に対する日医の見解を公表
 同常任理事は,まず,亡くなられた患者さんとその遺族に対して,改めて哀悼の意を表明.そのうえで,今回の事件を「産婦人科医だけでなく,医療界や,社会に大きな衝撃を与えるものであった」と振り返るとともに,その問題点として,(一)医療事故が発生してから一年以上が経過し,その間,この事故の調査が行われ,地域の周産期医療を担い続けてきた医師が,逃亡や証拠隠滅の恐れがまったくないにもかかわらず,突然逮捕,拘留され,その直後に起訴されるという極めて不当な事件であったこと,(二)専門医が判断すれば,通常の医療行為を行ったが,残念ながら力が及ばず不幸にして亡くなられた事例であり,刑事罰の対象にはなり得ない事件であるにもかかわらず,刑事司法の判断によって「医師の過失が重大である」とされ,刑事訴追されたこと―を指摘した.

(引用文中の「拘留」は原文ママ)
上記は日医ニュースから、木下勝之常任理事のコメントです。実は(一)は一部意味不明なんですが(起訴の不当性をいう根拠が全く示されていない。それは(二)の話じゃないか?)、「逃亡や罪証隠滅の虞がまったくないのに逮捕勾留されるのは不当」という主張はその通りです。逮捕や勾留の要件は以前も書きましたが(ここ)、逮捕の要件を満たしていないのに逮捕するのは不当です。
不当なんですけど、現状ではこの逮捕の要件が非常に緩やかに解釈され、大野事件のような「罪証隠滅なんてやりようがないし、逃げるなんて考えられない」ケースでも簡単に身柄拘束され、それがさらに「身柄拘束を行い、自白しなければ保釈を認めない」という人質司法につながっています。
この人質司法については当然国外からの批判も強いわけですが、一向に改善されません。その理由は、捜査機関にとって都合がいいということに加え、「犯罪者と疑われた人間を拘束しないことについて国民の理解が得られない」からではないかと思います。
GPJの時もそうでしたが、「逃亡や罪証隠滅の虞はなく逮捕は不当」と言われても理解できない人が少なくないんです。「そんなの関係ない、罪を犯したのだから逮捕されて当然」という考え方です。被疑者が逮捕されて喝采をあげる人が少なくない現状では、単なる勘違いですまないものがありそうです。
こういった国民感情は逮捕や起訴前勾留に限った話ではありません。凶悪事件の犯人として起訴された被告人、たとえば光市事件の被告人でもいいですが、その人が仮に逃亡や罪証隠滅の虞がないと明らかになったとして、じゃあ身柄を解放しましょうとなったとき、反対する人は少なくないと思います。もちろん現実問題としては凶悪事件の被告人が「逃亡や罪証隠滅の虞がない」と明らかになることはまずないでしょうが、そのような話でなく、「仮に明らかになっても」、やはり反対する人は出てくると思います。
今回の事件が逮捕勾留の問題について考えるきっかけになればいいんですけど。