医療行為についての刑事免責

ネタが何も思いつかないのに加えて多忙のためブログ更新が大分滞っています。ネタに困った時は他人のブログからネタを引っ張ってくるのが当ブログのスタンスなので、今日はNATROMさんの日記からネタを引っ張ってきました。

医療行為に対する刑事免責についてのエントリーなんですが、見ての通り小倉弁護士のブログの内容に対する反論です。私としては、小倉さんの言わんとすることもわかります。
NATROMさんの意見の根底にあるのは、「真っ当な医療行為について、結果が悪かったからといって刑事罰を科すな」ということだと思います。そしてこの意見は、小倉さんが『「すべての医療ミスを免責せよ」と主張しているように読め』るとして示した文章にもみられるものです。たとえば最初に例示されている「http://nosmoke.kongozawa.net/sb/log/eid15.html」ですが、小倉さんの引用していない部分に(引用していないだけでリンクはちゃんと張ってあるので他意はないのは明らか)

もとより医療は人に薬物を投与し、手術などで傷つける行為であり正当業務として免責されている。それなのに結果が悪いと他の業務と同様に刑事罰を科すというのはどう考えても不当である。

とあり、これをみれば「正当な医療行為に関しては」という条件を付した上で「結果が悪かったからといって過失犯に問うのは不当である」という主張にも読めます。
ではなぜこの「真っ当な医療行為について、結果が悪かったからといって刑事罰を科すな」という主張がなぜ通じないのか。おそらくその原因は「刑事実体法の上では、すでにそのようになっている」からだと思います。正当な医療行為について、刑事罰を受けることはありません。たとえ結果が悪かったとしても。つまり、刑事実体法はすでに医療関係者の望むようになっているのです。にもかかわらず刑事免責を求めるということは、「正当な医療行為に関しては刑事罰を科さない」現状に、さらにプラスアルファを求めているわけですから、それがたとえば業務上過失致死傷罪の廃止等のようにすべての医療ミスが免責される結果となる表現で行なわれれば、「すべての医療ミスを免責せよ」という主張に解釈されるのではないでしょうか。
この「犯罪じゃなければ犯罪じゃない」という当たり前のことが福島事件あたりで崩れた(検察・警察が正当な医療行為について正しく判断できなかったと医療関係者は考えている)のが発端となっているわけですが、刑事実体法の方は変わっていないわけですから、それ以外に原因があるはずなので、そちらから論じたほうがいいような気がします。(一例ですが、医療事故調−望ましいものができたとしてですが−の「刑事処分相当」の判断が出ない限り刑事手続に乗せないようにするとか)


…で、以上は実は前フリです。引っ張ってきたネタはNATROMさんのエントリーの本体ではありません。コメント欄の以下の発言です。

tonton 2008/07/24 07:20
法論理の上で言えば、小倉弁護士の主張は正しいと思いますよ。血液型のミスマッチをして死なせたなら、「業務上過失致死罪」にはならないと思います。「故意の傷害致死」になると思いますから。
たとえば、人を殺そうとして銃弾を発して死なせたなら、業務上過失致死罪ではなくて、普通の殺人罪でしょう。また、出血多量で死なせるのも同様です。血液型のミスマッチも同様です。やったのが医者であれ、素人であれ、そんなことをすれば、傷害致死罪か殺人罪になります。業務上過失致死罪にはならないので、(業務上過失致死罪に関しては)不可罰となります。
要するに、二人の論点がズレているので、議論になっていないわけです。

いや、小倉さんはそんなこと言ってませんから(笑)。
輸血の際に、血液型を間違って輸血してしまい、結果患者が死ねば業務上過失致死罪になり得ます。間違ったことについて止むを得ない事情があれば(つまりちゃんと調べたけど結果的に血液型を間違ってしまったのであれば)犯罪不成立ですが。故意犯である傷害致死罪になるのは、患者を傷害する目的でわざと間違った血液型で輸血し、結果患者が死亡した場合です。死亡させることにつき故意があったのなら(未必の故意含む)、殺人罪になります。しかしそれは医療行為に見せかけた傷害事件ないし殺人事件であって、そんな話は小倉さんもしていません。
そしてtontonさんは、自分の発言「だけ」みてこれがおかしいと思わなかったのでしょうか。tontonさんは「人を殺そうとして銃弾を発して死なせたなら、業務上過失致死罪ではなくて、普通の殺人罪でしょう。また、出血多量で死なせるのも同様です。血液型のミスマッチも同様です。」と書いています。これをそれぞれ個別に書けば、

  • 人を殺そうとして銃弾を発して死なせたなら殺人罪
  • 人を殺そうとして出血多量で死なせたなら殺人罪
  • 人を殺そうとして血液型ミスマッチ輸血で死なせたなら殺人罪

となりますし、これ自体は正しいんですが、「人を殺そうとして血液型ミスマッチ輸血で死なせた」場合の話なんて誰もしていません。もしかすると「人を殺そうとして」というのは「銃弾を発して死なせた」場合のみにかかっていて、「血液型のミスマッチ」にはかかっていないのでしょうか。だとしたら論外です。法論理の上で言えば(笑)、殺人罪が成立するためには殺人の故意が必要です。これは医療問題とはなんの関係もないただの基本です(故意犯処罰の原則)。
で、このtontonさんの発言自体は呆然とするしかなかった類のものですが、それに対する他者の突っ込み。

akabee 2008/07/24 14:24
tontonさんこんにちわ。

>出血多量で死なせるのも同様です。
tontonさんに質問をしたいです。
この世の中に、故意に出血多量で患者さんを死なせようとする医師はどれだけいるのでしょうか。
論点のズレとか、既にそういう視点ではないと思うのですが。

みての通りakabeeさんのこの突っ込みは、極めて普通の突っ込みなんですが、この普通の突っ込みに思わず笑ってしまいました。ボケ役が笑いを取るのは当たり前なんですが、ツッコミ役が笑いを取れるって、これってtontonさんに天性のボケの才能があるんだと思います。こんなコメンテーターがいるなんて、NATROMさんが羨ましいです。