逮捕の要件

グリーンピースジャパン(以下GPJ)から逮捕者が出たことについて、ネット上で様々な意見が出ていますが、その中に逮捕の要件についてご存じない方が若干おられるように見受けられます。以下は逮捕に対するGPJ星川淳事務局長らの会見についての報道なのですが、

 星川事務局長は「(持ち去りが)正しい唯一の方法とは思わないが、組織的な闇を際だたせるにはこの方法がよかった」と主張。そのうえで「逃亡や証拠隠滅の恐れはなく、逮捕は不当。強く抗議し釈放を求める」と改めて訴えた。

この「逃亡や証拠隠滅の恐れはなく、逮捕は不当」という見解について、Yahoo!のコメントや2chで以下のような意見が出ています。

悪いことして本人が居直ってたら逮捕されないのか?
言ってることが無茶苦茶で一般人には、理解できません
悪いことしたら、警察に捕まるって、子供でも知ってます
子供にすら及ばない理論展開されても世間は、認めません

14 名前:名無しさん@全板トナメ参戦中 投稿日:2008/06/21(土) 13:13:39 ID:9OBhcHF30
>逃亡や証拠隠滅の恐れはなく
俺がバカなのかもしれんが、こいつ何がいいたいの?
23 名前:名無しさん@全板トナメ参戦中[sage] 投稿日:2008/06/21(土) 13:14:30 ID:mqxW8sn00
「逃亡や証拠隠滅の恐れはなく、逮捕は不当」
いやだから、窃盗罪で逮捕されてるわけで・・・やっぱりアホだな。
39 名前:名無しさん@全板トナメ参戦中
投稿日:2008/06/21(土) 13:17:28 id:AWY4vsDo0
逃亡や証拠隠滅の意図は関係なく
た だ の 窃 盗 罪 で す

なんといいますか、逮捕というものを罪を犯したと疑われる場合に当然に行われるもの、あるいは罪を犯したことに対する処罰の一種と考えておられるようです。逮捕というのは実はそんなものではありません。逮捕、この場合は通常逮捕の要件ですが、まず「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」(刑事訴訟法119条1項)が必要です。さらに、裁判官は「明らかに逮捕の必要がないと認めるときは」逮捕状請求を却下しなければならない(刑事訴訟法119条2項但書)とされています。そしてこの「逮捕の必要がない」場合ですが、これは以下のように定められています。

刑事訴訟規則143条の3(明らかに逮捕の必要がない場合)
逮捕状の請求を受けた裁判官は、逮捕の理由があると認める場合においても、被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及び態様その他諸般の事情に照らし、被疑者が逃亡する虞がなく、かつ、罪証を隠滅する虞がない等明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、逮捕状の請求を却下しなければならない。

結論としては、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があったとしても、逃亡する虞がなく、かつ、罪証を隠滅する虞がない等の場合に逮捕するのは不当です。なので、GPJ側の主張する「逃亡や証拠隠滅の恐れはなく、逮捕は不当。強く抗議し釈放を求める」は、別におかしな言い分ではありません。問題は、被疑者あるいはGPJ側の「逃亡や証拠隠滅のおそれはない」という言い分が信じられるかどうかです。
たとえば刑事訴訟法に勾留の要件として以下が定められています。

刑事訴訟法60条
裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。
1.被告人が定まつた住居を有しないとき。
2.被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
3.被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。

大量殺人や強姦殺人、あるいは強盗殺人などの凶悪事件の被告人として勾留されている人は少なくないですが、というかそういう凶悪事件の被告人でありながら勾留されていない人を探す方が難しいですが、そういう凶悪事件の被告人であるからといって「当然に」勾留されているわけではないのです。そういう凶悪事件の被告人の場合でも、逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれがなければ勾留してはいけません。そのような場合に勾留するのは不当です。
しかしですね、そういう凶悪事件を犯したと疑うに足る相当な理由がある被告人が、「私は逃げも隠れもしませんし罪証隠滅もしません」と宣言したからといって、直ちに信じてもらえるわけではないのです。本当に逃げも隠れもせず罪証隠滅もしない被告人が、それを信じてもらえず勾留されるのは気の毒ですし、実際勾留の必要がないのに捜査側の都合だけで勾留されていると思える被疑者・被告人がいる(いわゆる人質司法の問題)のも事実ですが、一方で信じてもらえない理由があって信じてもらえない被疑者・被告人もいます。
今回GPJメンバーが宅配業者から鯨肉を盗み出した件は上例の凶悪事件と比べれば軽いものですし、確信犯ですから、被疑者が「私は逃げも隠れもしませんし罪証隠滅もしません」と主張するのは理解できますが、信じてもらえなくても仕方ないんじゃないでしょうか。