法律における都市伝説

今日は四月一日、エイプリルフールです。今日はどんなデタラメを書いても大丈夫です。安心してウソが書けます。
…いつもとかわらないか。
それはともかく、四月といえば年度始めです。校舎に新入生があふれ、街に新社会人があふれる季節です。桜が咲き暖かい日差しが新たな門出を祝います。
4月1日〜3月31日がひとつの年度になっているわけですから、学年を誕生日で区切れば4月1日生まれ〜3月31日生まれの人が同学年になるように思えます。同じ年の4月1日に生まれた人と4月2日に生まれた人は、同じ年に小学校に入学する、というわけです。ところが、実際にはそうなっていません。誕生日で学年を区切ると、4月2日生まれ〜4月1日生まれが同学年になります。同じ年の4月1日に生まれた人と、4月2日に生まれた人は、4月1日に生まれた人の方が学年では1つ上になるんですね。ちょっと考えると不思議です。学年の区切りは4月1日〜3月31日ですから、誕生日の区切りも4月1日〜3月31日になるような気がします。なぜ4月2日〜4月1日になるんでしょうか。
その答えを書く前に、巷に出回っている法律における都市伝説を紹介します。それは、「法律によると、人は誕生日の前日に歳を取る。」というものです。これは、後に述べるように完全に間違いではありませんが、まったくもって不正確です。どこが不正確か、法律における年齢計算の方法をおさらいしてみましょう。
民法第6章の期間の計算によれば、年単位の場合の起算日は、午前0時に始まる場合を除き、初日不算入が原則です。また、期間の満了は末日の終了をもってする、と定められています。ややこしい書き方ですが、4月1日の午前10時に生まれた人を例にすると、初日不算入ですから起算日は4月2日です。その人が0歳の期間は、そこから1年ですから4月2日〜4月1日となります。0歳の期間の満了、すなわち0歳が終わって1歳になる時は、末日の終了をもって、つまり4月1日の終了をもってです。すなわち、4月1日の午前10時に生まれた人は、翌年の4月1日になった時点ではまだ0歳です。生まれた時刻である午前10時を過ぎようと、日が沈もうと、夜中の10時になろうとまだ0歳です。4月1日が終了して、4月2日になってはじめて1歳になります。あるいは、4月1日の午前0時に生まれた人はどうなるでしょう。これは初日不算入の例外ですから、先程の例と一日ずれて、3月31日の終了をもって、すなわち4月1日になって1歳になります。まとめると、民法の規定をそのまま年齢計算に用いれば、「同じ日に生まれても時刻によって加齢される日が異なる」「午前0時に生まれた人を除き(つまりたいていの人にとっては)誕生日の翌日に加齢される」という不都合が生じます。
この不都合を解消するために存在するのが「年齢計算ニ関スル法律」です。この法律では、年齢計算の起算日を「出生の日(すなわち誕生日)」と定めています。つまり、年齢計算においては初日算入の例外を定めているんです。これにより、どの時刻に生まれようと常に誕生日が起算日となり、誕生日の前日の終了をもって期間が満了します。4月1日の午前0時に生まれた人も午前10時に生まれた人も3月31日の終了をもって、すなわち誕生日当日に歳を取ります。これで常識的な制度になりました。
このような常識的な制度を採っているのにもかかわらず、なぜ前述したように同一学年における誕生日の区切りが4月2日〜4月1日になるんでしょうか。それは学校教育法の就学年齢の規定によるものです。学校教育法では、小学校就学年齢について「満6歳に達した日」と定めています。この「達した日」とは、いつでしょうか。4月1日に生まれた人が満6歳に達するのは、5歳の期間が満了したとき、すなわち3月31日が終了したときです。3月31日が終了し、4月1日の午前0時0分0秒に6歳になります。ならば6歳に達する日は4月1日でいいんじゃないの、と思った人は大事なことを忘れています。それは「3月31日と4月1日の間には明確な区切りはない」ということです。
前述の例では、3月31日は5歳最後の日です。日が昇り、日が沈み、夜中になって、どんどん5歳の残り時間は少なくなります。23時、23時30分、23時59分と時が進み、3月31日の24時をもって5歳の期間は満了し、これをもって6歳になります。この3月31日24時というのは、4月1日0時と同じ時刻です。3月31日から4月1日に移る間には、3月31日であり、かつ4月1日であるという瞬間が存在し、加齢されるのはまさにその瞬間なんです。4月1日に生まれた人は、3月31日の時点ではまだ5歳です。まだ5歳ですが、6歳に達するのはその日が満了した3月31日24時(これは4月1日0時でもある)です。なので、日単位でみると、6歳に達する日は3月31日なんです(都市伝説の紹介で「完全に間違いではない」と書いたのはこのため。「誕生日の前日に加齢されている」というのは間違いだが、「誕生日の前日が加齢日である」という主張は正しい。「加齢されている」ことと「加齢日である」ことは違うのだ。)。そのために、同一学年の誕生日の区切りが4月2日〜4月1日になるんですね。
就学年齢については上記の通りですが、飲酒または喫煙可能年齢となると話が変わってきます。未成年者飲酒禁止法では「満20年ニ至ラサル者」の飲酒を禁止しています。同様の例でいくと、4月1日生まれの人は、3月31日が20歳に達する日ですが、これはあくまで「達する日」であって、3月31日の時点で加齢されているわけではないので、3月31日にお酒を飲んではいけません。