橋下弁護士騒動

江川紹子氏のコラムで橋下弁護士による光市母子殺害事件弁護団懲戒請求煽動の件に関する見解が述べられていた。
刑事弁護を考える〜光市母子殺害事件をめぐって
内容の大半については、さすが、としか言いようがない。全体を見渡したバランスの良さ、文章の読みやすさわかりやすさはジャーナリストの中ではトップクラスである。特に

 弁護人は、被告人が主張しているのであれば、どんな荒唐無稽な内容でも、それに沿った弁護活動をするのが仕事だ。オウム事件でも、教祖や自分の罪を免れようと、はちゃめちゃなストーリーを展開する被告人はいた。事実は認めていても、教祖を神格化し、教団を正当化する被告人もいた。教祖が宙に浮くとか、神通力があるとか、非科学的なことを前提にする被告人の話に説得力があるわけがない。それでも、被告人の主張に沿いながら、できる限りの主張をする弁護人たちの姿は、むしろ痛々しかった。

の部分は、自身の経験と知識に基づいた深い洞察であると感心する。しかしながら、一点だけ腑に落ちない点があった。それは以下の部分である。

 しかし、被告人がどんな冷酷で狡猾な人間であっても、その利益のために最大限の努力をするのが弁護人の仕事だ。被告人がひどい男だからといって、その職責を果たしている弁護人に懲罰を加えて、弁護士としての活動をできないようにしてしまえとテレビで煽るのは、やりすぎだ。ましてや、刑事手続きにおける弁護人の役割をよく知っているはずの弁護士が、先頭に立って視聴者をけしかけているのには、かなり唖然とした。

前半については異論のないところである。問題は後半だ。確かに橋下弁護士の意見は是の打ち所のないものである。以降いろいろと言い訳を重ねているが、刑事弁護の理念や弁護技術といったものを全く理解していないのではないかと思えるような、他人から見れば笑いものにしかならない戯言しか並んでいない。しかし考えてみてほしい。橋下弁護士が「テレビで煽った」、そのテレビ番組はどのようなものであろうか。たかじんのそこまで言って委員会、ウェークアップ!ぷらす、スーパーモーニングなど、いずれもバラエティ番組である(ウェークアップ!ぷらすやスーパーモーニングを情報番組と誤解している方もおられるかもしれないが、それらが情報番組をパロったバラエティ番組なのは内容から明らかである)。
バラエティ番組にもいろいろあるが、たとえば視聴者を笑わせることを目的にした番組において、出演者が「他人が聞いたとき笑ってしまうような発言」をすることは番組の目的に適っている。橋下弁護士が笑い話にしかならないことを言ったのは事実だが、それは番組の目的からして正当なものである。江川氏は、実際に橋下弁護士の煽りに乗って不当な懲戒請求を出してしまった人がいることを問題のひとつにあげているが、バラエティ番組の内容を真に受けて馬鹿なことをした人がいてもそれはその人の責任であり、出演者に責任を転嫁するのは正当でない。
おそらく江川氏の生真面目さがこのようなことを書かせてしまったのだとは思うが、以前に毎日新聞という名のバラエティ誌で青木絵美という空想作家が書いた、奈良であった妊婦の事故を題材にした笑い話を掲載した時、それはおかしいと指摘した医療系ジャーナリストが一人でもいたであろうか。いるわけがない。笑い話がおかしいのは当たり前で、笑い話なのにおかしくなかったらその方が問題である。
江川氏は文章力や知識、考察力といったものは十分にあるのだから、それ以外の部分でも自分を磨いてほしいと思う。