通達された一枚の手紙

通達というのは行政規則の性質を持つものであり形式的には裁判所を直接拘束するものではない(*1)が、当然拘束力を持つものであり無視していいものではない。いくら通達に従うのが都合が悪いからといって無視して好き勝手にやるのは単なる違法行為あるいは脱法行為の謗りを免れまい。日本は民主主義国家であるのだから、政治的な物事というのはきちんと民主主義の手続きに則って行われるべきである。
パチンコ、パチスロを営むホールは風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下風営法)の2条7号営業であり、公安委員会の管轄である。パチスロ機の性能に関する規則は所轄官庁がその目的に合うように定めている(風営法20条)。パチスロは遊びであり賭博ではないから、一回の大当たりで一万円分以上のメダルが獲得できたり、短時間で十万円分のメダルが獲得できるような性能は許されていない。抽選方式も、大昔はともかくいわゆる4号機以降は完全確率方式であり大当たり確率を変動させて意図的な連荘性能を組み込むことは禁止されていた。
しかしながら過去の4号機を見渡してみると、時速5000枚といわれた爆裂AT機、一回の大当たりで700枚以上のメダル(等価にして一万四千円以上)を獲得できる大量獲得機、いわゆる天国モードを有する連荘機などが大量にリリースされていた。裏物ではなく、正規に適合試験に合格した機種である。もちろん規則の理念通りに作ればこんな機種は不可能である。試験方法の裏をかいて通していたものであり、早い話が脱法機である。このような現状を打破するため、パチスロに関する新規則が施行された。いわゆる5号機時代の始まりである。
5号機の規則では短期出玉率の上限が非常に厳しくなっている。またシミュレーション試験においては成立した役はすべて取得する方式で行われ、これにより爆裂AT機は不可能になった。また大当たり時の終了条件が払い出し枚数により行われることとなり、大量獲得機も不可能となった。成立した役を制御で無理やり揃えない事も出来なくなったし、大当たりフラグが成立しているときには大当たりの抽選を行わないこととなった。これによりストック機能を用いた連荘機も不可能となった。長期出玉率自体は上限120%未満と変わっていないが、試験時の出玉率を誤魔化す方法がない限り事実上110%ぐらいの機種しか合格できない。ぎりぎり119.99%の性能の機械を試験に出して、試験時に理論値より一回でも多くボーナスを引かれたら終わりである。しかしメーカーも考えるものである。試験時の出玉率を実際の出玉率より低くなるようにして、長期出玉率120%近いハイスペック機を市場に送り出してきた(*2)。
その方法はいろいろあるが、代表的なものはリプパン方式である。たとえば銀座(サミー系列)がリリースしているリングにかけろ(最高設定の機械割が約119%)であるが、この機種はすべてのボーナスの後に100または200ゲームのリプレイタイム(以下RT)に突入する。この間はリプレイ確率が上がり、メダルを増やしつつボーナス抽選を受けられる。RT内でボーナスを引くことが出来れば一気にメダルを増やすことが出来る(*3)。もちろんこれで機械割が高ければ長期出玉率の規制にひっかかって試験に落ちてしまうわけであるが、リングにかけろでは試験時の機械割を落とす仕掛けがひとつある。左リールにある青チェリーである。
リングにかけろでは一枚役である青チェリー-any-anyが図柄RT突入図柄になっており、これを入賞させるとリプレイ確率の低いRTに突入する(ゲーム数は不明。1ゲームかもしれない。)。つまり、ボーナス後のRT中に青チェリーを入賞させるとボーナス後の高確率RTが青チェリーの低確率RTで上書きされ、事実上RTが終わってしまう。これをリプレイタイムのパンク、略してリプパンという。青チェリーの成立確率は13.6分の1であるから、ボーナス後の高確率RTは実質13ゲームそこそこしかないわけだ。しかしこれは青チェリーを入賞させた場合である。左リールに青チェリーはひとつしかないから、わざと青チェリーが入賞しないように打つことによりリプパンを回避して打つことが可能となる。実際の打ち手はRT中に青チェリーを入賞させないように打つ(リプパン回避)わけであるが、シミュレーション試験では「成立した役はすべて取得する」ため、RTをすぐにパンクさせてしまい実際に人が打つときの機械割より低い数値しかでないことになる。これによって機械割119%というハイスペック機が試験に通るわけである。
考えたものであるが、先日警察庁(*4)から通達が出されたらしく、この方式も終わりをつげることとなった。まあ仕方ないだろう。本来出玉率規制は「最大の出玉率を得られる打ち方」で打った場合の数値で判断するべきなのだから、このようないわゆる裏をかいた仕様はいつか終わるものである。
ただ私は思う。出玉率に関する規制は一向に構わないが、ゲーム性に関する規制はやめてほしかったパチスロは本来単なる遊びであり、ギャンブルではない。ないからこそ、パチンコのように単にハンドルを握っているだけではない多様な遊戯性は殺してほしくなかったのである。

(*1)昭和33年3月28日最高裁判決
(*2)この方法を使えば機械割120%を超える超ハイスペック機も可能であるが、さすがにそれは自粛したようである。
(*3)一気に、といっても4号機ストック機の連荘と比べれば穏やかである。
(*4)時々警察庁と警視庁を混同する人を見かけるが、両者はまったく別のものである。