とりあえず終了

この前から続いていたYosyanさんのブログの私と774氏さんのやり取りが終わった。774氏さんから終了宣言が出されたのだ。それは以下のようなものである。

も、もう結構でございます。頭が悪くて難しい事は分かりませぬし、関西人の皮肉というのは難しいもんでございますなあ。

これだけみれば、他人に「医療は準委任契約です。失礼ながらその意味はご存知でしょうか?」などと問うておいて「関係ない話なので意図を説明せよ」と言われてなにも語らず謝罪もせず終了宣言するモラルに欠ける行為であるが、774氏さんが医者であること(医者は忙しいのだ)、終了せざるを得ない理由をきちんと述べておられることを考慮すれば批判には値しまい。なので、私も最後にまとめを書いて終了させることにする。
774氏さんの言う「関西人の皮肉というのは難しいもんでございますなあ。」という発言の意味であるが、774氏さんの当初の発言は皮肉であったことが自身により語られている。それに対して「皮肉になっていませんよ」と私が指摘したことに対するものである。この部分を放置するとわけがわからない人もいるだろうから、なぜ774氏さんの発言が皮肉になっていないのかを説明しておく。
まず774氏さんの発言の皮肉のポイントがどこにあるかだが、これに会計士Xさんが次のようなコメントをつけておられる。

774氏様の皮肉は
1.「真実解明」には医師患者両者の協力関係が必須であり、それなしでは達成し得ない
2.高額な賠償金を請求された時点で敵対関係に入り、協力は不可能となる
3.故に1.、2.を真とすれば、高額賠償の話が伝わった段階で真相究明は不可能になるのだから、裁判の目的は最初から達成できない事が約束されナンセンス。
ということですよね。
1.、2.の前提が真である限り、3.は真なのだから、1.、2.の前提を否定せねば有効な反論とならない。しかし、sci98様やMed_Law様の反論は、1.、2.の前提と違う方向に主眼を置いているので、議論が全然かみ合っていないんですよね。

先に指摘しておくと、上記の意見は誤りである。裁判においては2.が真でないのだ。「真相究明に協力する」とはなにをすることであろうか?もちろん「口を開くこと」である。逆に、協力しないこととは「口を閉ざす」ことである。そして、どうしても負けたくない裁判なら口を閉ざすことはできない。そんなことしたら負けてしまうからだ。逆に、負けてもいい裁判なら口を閉ざしていても困らない。だから、真相究明を目的とする原告としては、被告がケンカ腰になるのは願うところなのである。逆に、単に賠償金が目的なら被告が協力しない(口を閉ざす)方が望ましい。なので、上記の指摘は成立しない。
ちなみに会計士Xさんは

法曹の方と医療関係の方との議論を拝見していると、この種の前提の噛み合わない議論が散見されるのですが、これって法曹の方が法的な思考方法を叩き込まれた結果、無意識にそうなっているのか、あるいは議論のテクニックとして相手の前提や論点を故意に受入れず自分の設定した論点に引き込もうとしているのか、どちらなんでしょうね?

と書かれているが、これは単なる誤解だろう。Med_Lawさんは「一万円訴訟にすると相手が口を閉ざしてしまう(協力してくれない)」と指摘しているわけで、裏を返せば高額訴訟ならば口を開かせる(協力させる)ことができるわけで、きちんんと的を射た反論をしている。私も「高額訴訟で相手が対決体勢に入るのは願うところ」という趣旨のことを書いている。
それはさておき、774氏さんの発言の皮肉のポイントはここではないだろう。皮肉とは「遠まわしに意地悪く相手を非難すること。また、そのさま。当てこすり。(大辞泉)」である。たとえば774氏さんは以下のようなコメントをされている。

真実を明らかにしたい、産科医療を改善したいというなら、あんな高額訴訟ではなく1万円訴訟にした方がいいのになあ。だって1億近く吹っ掛けられたら、どんな手を使っても全力で戦うでしょ。赤ちゃんまで原告にしたら、相手から見るとけんかを売ってると感じますわな。以前、写真を持ち込もうとして禁止されたこともあるはず。裁判目的が金目当てではなく、真相究明・産科医療改善なら逆効果です。せっかく原告の人間性を信じて、原告の応援をしていた自分が浅はかだった。あの裁判目的はうそなのか、金目当てだったのか、私は騙されていたのかーーー(白々し過ぎますか?)

この発言では「真相究明等が目的なら高額な賠償請求は逆効果」ということはストレートに批判されている。なので、会計士Xさんのおっしゃる部分は皮肉のポイントではない。774氏さんの皮肉のポイントがどこにあるかは後半部分を読めばわかる。

せっかく原告の人間性を信じて、原告の応援をしていた自分が浅はかだった。あの裁判目的はうそなのか、金目当てだったのか、私は騙されていたのかーーー(白々し過ぎますか?)

最後の括弧書きからして、皮肉ろうとしているところはここであろう。つまり774氏さんは「真実究明等が目的といっていたのはウソで、実は単なる金目当ての訴訟だった」ことを皮肉っているのだ。しかし、これを皮肉るのは誤りである。
第一に、高額訴訟を起こして相手がケンカ腰になるのは真実究明を目的とするなら願うところだ。低額訴訟で相手が引いてしまったら真実究明など不可能である。逆に、賠償金目的なら相手には引いてもらった方がいいに決まっている。だから、請求金額が高額であることをもって「真実究明が目的でなく金目当てだったのだ」と判断することは失当である。
第二に、ここが重要なのであるが、774氏さんは大きな勘違いをしている。

せっかく原告の人間性を信じて、原告の応援をしていた自分が浅はかだった。

774氏さんが実際には原告の人間性など信じていず、応援もしていなかったのはこの部分が皮肉であることから明らかであるが、ただ、774氏さんが次のように考えておられることは読み取れる。

「金目当てでなく、真実究明を目的として裁判を起こす人の人間性は信じられるし、応援もできる」

これは大きな勘違いである。前にも書いたが、真実究明を目的に訴訟を起こすなど、訴訟制度の目的とするところではない。真実究明を目的として裁判を起こす人の人間性など、どうやったら信じられるのか。真実究明を目的として裁判を起こすのは会社を休みたくないという理由で夜間救急を利用するようなもので、本来の目的で使いたい人の負荷を何も考えていない自分勝手な行為である。逆に、賠償金目的で裁判を起こすことは訴訟制度の目的に適うものであるし、なんら批判されることではない。大体、高額賠償を受けたからといって、当該事件の関係では原告は一銭も儲からないのだ。
たとえて言うなら、774氏さんの皮肉は「会社を休みたくないので夜間救急を利用したと口で言っておきながら、実は夜中の急病で夜間救急を利用せざるを得なかった人」に対して

会社を休みたくないという理由で来診したと思っていたら、実は夜間の急病だったのか。患者の人間性を信じていたのに!

というようなものである。たしかにウソをつくことは一般的には悪いことであるが、だからといってそれに上記の皮肉は筋違いである。上記の文章が皮肉として成立するには「夜中の急病で夜間救急を利用するなどとんでもないことだが、会社を休みたくないという理由なら構わない」という前提が必要であろう。同様に、774氏さんの文章が皮肉として成立するためには「金目当てで裁判を起こすなどとんでもないことだが、真実究明目的なら構わない」という前提が必要であるが、そんな前提はどこにもない。
今回、774氏さんが「真実究明が目的ではなく金目当て」と判断した理由は到底成り立たないものだが、仮に原告が実は金目当てで裁判を起こしたとしたら、「なんだ、訴訟の目的自体はまともなものだったのだな」と思うところである(「なんでそんなウソをつくの?」とは思うが)。