損害賠償請求訴訟について

とうとう4回目である。とりあえず、Yosyanさんのブログの774氏さんのコメントから。

結局、私の書いた「皮肉」が「マジな気持ち」として伝わってしまったという事か。だから話がかみ合わなかったという。しかし法曹の決まり文句だなあ「そこまで言ってもまだ分かりませんか?」・・・医者だったら説明義務違反問われちゃいますよ。

これだけじゃ何のことかわかならいが、ここに至るまで私と774氏さんの間で以下のようなやり取りがあった。

774氏さん:医療は準委任契約です。失礼ながらその意味はご存知でしょうか?
私     :不法行為責任を問うているはずですので、準委任契約云々は無関係です。
774氏さん:契約自体関係ないとおっしゃられますが、どこに不法行為責任があるとお考えでしょうか。
私     :不法行為責任があるとは一言も言っていません。どういう意図で準委任契約などという言葉を持ち出したのですか?

なんともちぐはぐなやり取りである。Yosyanさんのブログは多くの方が読んでおりコメントもつけておられるので、このやり取りで長文を書いてコメント欄をパンクさせるわけにはいかないからお互い仕方ないのだが。というわけでここに「なぜ今回の訴訟で医療が準委任契約であることを持ち出すことがナンセンスなのか」について書くことにする。
今回の訴訟は損害賠償請求訴訟である。損害賠償請求をするのには、主に2つの理由がある。
(1)債務不履行に基づく損害賠償請求
(2)不法行為に基づく損害賠償請求
(1)の場合は、被告が債務者であり原告が債権者である必要がある。債務は多くの場合は契約により発生する。医療過誤訴訟で債務不履行が問われる場合は、原告と被告の間で医療契約が交わされている場合である。今回の場合はどうだろうか?
舞台となった大淀病院は町立病院であり、担当医はそこに勤務している。医療契約は病院と患者の間で交わされる。この場合、担当医は医療契約上の履行補助者であって患者自身とは契約関係にない。つまり、担当医自身は患者となんの契約も結んでいないのである。通常こういう場合に医療過誤訴訟で債務不履行責任を問う場合、病院も訴えることになる。しかし今回の場合、(病院設置者である大淀町を除くと)訴えられているのは担当医個人のみであり、病院は訴えられていない。もちろん病院を訴えなくても損害賠償請求は可能である。(2)の不法行為責任を問えばよいのである。
上記の事実を考えると、「医療は準委任契約です」という言葉が意味のないものであることがわかると思う。わからないなら「医療」を「売買」に、「準委任契約」を「双務契約」に置き換えてみるといい。
「売買は双務契約です。失礼ながらその意味はご存知でしょうか?」
無意味な言葉であることが一目瞭然であろう。売買契約が双務契約なのはその通りだが、原告と被告医師は売買契約など結んでいない。結んでいないのだから、売買契約が双務契約であろうがそうでなかろうが無関係である。同様に、原告と被告医師は医療契約など結んでいない。結んでいないのだから、医療契約が準委任契約であろうがそうでなかろうが無関係である。
なので私は「どういう意図で『医療は準委任契約です』という言葉を持ち出したのか?」と尋ねてみたのだが、私の説明不足のため回答は頂いていない。今回は手短に書く必要はないからかなりわかりやすく書いたつもりであるが、どうだろうか?

一応、「こういう意図だと解釈すると矛盾なく解釈できる」という観点において私が勝手に「もしかしたらこういう意図かもしれない」と解釈した内容とコメントを書いておく。私が勝手に想定したものだからあまり意味はないのだが、万が一774氏さんの意図がこの通りなら説明する手間が省ける。
「今回、被告医師の処置は適切なもので過失はない。だから不法行為にはならないから問われるのは債務不履行責任のはず。しかし医療契約は準委任契約だから、結果責任など取らなくていい」
2つの点で誤りである。まず、被告医師は原告に対し債務を負っていない。だから(医療契約が準委任契約か否かに関係なく)債務不履行責任など問われようがない。次に、単なる債務不履行だって結果責任など取らなくていい。債務不履行責任の成立要件に「債務者に帰責事由があること」というのがあるからだ。医療行為が結果責任を問われないのはその通りだが、それは医療契約が準委任契約だからでなく、債務不履行責任一般においてそうだからである。