前回の続き

Yosyanさんのブログのコメント欄にはこの件に関しての長文はふさわしくないので、ここに私の意見のまとめを書いておく。大本となった774氏さんのコメントのうち、異論がある部分は以下の通りである。

真実を明らかにしたい、産科医療を改善したいというなら、あんな高額訴訟ではなく1万円訴訟にした方がいいのになあ。だって1億近く吹っ掛けられたら、どんな手を使っても全力で戦うでしょ。赤ちゃんまで原告にしたら、相手から見るとけんかを売ってると感じますわな。以前、写真を持ち込もうとして禁止されたこともあるはず。裁判目的が金目当てではなく、真相究明・産科医療改善なら逆効果です。

箇条書きに論点だけまとめると以下の通り。

(1)真実究明/産科医療改善が目的なら高額訴訟ではなく1万円訴訟にした方がいい
(2)赤ちゃんまで原告にしたら、相手から見るとけんかを売ってると感じる

(2)については前回書いたので、今回は(1)について書く。まず、この「真実究明云々を目的とする裁判」であるが、私はこのての裁判が好きではない。裁判の本来の目的に外れるからだ。裁判を本来の目的で使っている人(損害賠償金請求等)はたくさんいる。なのにこのような本来の目的に沿わない訴訟が乱発されると、裁判を本来の目的で使おうとする人に余計な負荷がかかってしまう。とはいえ、ここではその点を強く批判することはしない。さて、真実究明云々を目的とする裁判において、損害額の算定はどうするのが適切だろうか?
一億円の損害を受けた人が「真実究明を求めて」訴訟を起こしたとしよう。適切な請求額はいくらか。
(1)一万円
(2)一億円
774氏さんの主張は(1)である。理由はYosyanさんのブログのコメント欄に書かれており、その一つは最初の引用にも入っている「一億も吹っかけられたらどんな手を使ってでも全力で戦う」。しかしそれは原告にとって願うところではないか?「一万円程度なら認めて払っておこう」と思われたら、真実究明に程遠い結果にしかならない。その点は同じコメント欄でMed_Lawさんが言及しておられるので確認願いたい。
さらに言うと、損害賠償制度の目的上、原告は裁判に勝っても当該事件の関係上では一銭も儲からない。一億円の損害を受けた人が一億円の損害賠償請求訴訟を起こしたとしよう。勝てば一億円賠償される。でも、それでようやくチャラ、差し引きゼロである。これは当たり前といえば当たり前で、誰かが損害を受けたとき、賠償させることによって損害を受けた人の差し引きをゼロにするのが損害賠償の目的だからだ。だから、「真実究明を目的とするなら請求額は一万円であるべき」という主張は「真実究明を目的とするなら九千九百九十九万円損するべき」という主張と同じで、それはちょっとおかしくないか?「真実究明を目的とするなら損するべきだ」というのは筋の通った主張には思えない。
もちろん「真実究明が目的なら損してもいいんじゃないか」とはいえるが、「損しなくてもいいんじゃないの?」と返されたら終わりである。