故意犯処罰の原則

以前より当ブログで取り上げている刑まさんの一人、南雲さんがまたトンデモエントリーを立ち上げた。

私は常々、人を死なせてしまったら、故意であれ過失であれ、一人であれ複数であれ、精神疾患の有無にも関わり無く「死刑」を前提に裁判がなされるべきだと思っている。
これは現行法下ではなし得ないことであって、この事件に適応せよとは言わない。
しかし、このような事件が起き、無罪判決が平然と出されることに強い憤りを覚える。
単なる応報ということではなく、社会的な制裁として刑罰が適切に執行されることを望んで止まない。
加害者が刑罰を受けさえすれば良いのではなく、その後同様の事件が起こらないようにするにはどうしたら良いのかを考えてもらいたい。

内容はまあ、以前blackseptemberさんが指摘していたように「良識ぶって自爆してる典型」である。とりあえず、入門書でいいから刑法総論の本を一冊読んでくれ。話はそれからだ。はっきり言って、殺せ殺せと合唱している人たちの方が何倍もマシである。
エントリーについて細かく突っ込む気力はないが、コメント欄にまた芳ばしい人が涌いている。トンデモエントリーにトンデモコメントが付くのは単なる類は友を呼ぶ現象で、いまさら驚くに値しないが、内容がまた秀逸(もちろんトンデモとして)である。

仮に私が「過失」で重大な犯罪を犯して、死刑を宣告されてもじたばたする気はありません。
(やっぱりちょっと乱暴な考え方かしらん?)
by toyo (2008-03-25 19:29)
(上記エントリーのコメント欄より)

南雲さんが「人を死なせた」場合に限定しているのに対し、toyoさんは「重大な犯罪」と幅を広げている。「死刑を宣告されてもじたばたする気はありません」って、潔いねえ。あたしゃ感動したよ。感動させていただいたお礼に、とある「重大な犯罪」を紹介しよう。刑法148条2項、偽造通貨行使罪である。

(通貨偽造及び行使等)
第148条 行使の目的で、通用する貨幣、紙幣又は銀行券を偽造し、又は変造した者は、無期又は3年以上の懲役に処する。
2 偽造又は変造の貨幣、紙幣又は銀行券を行使し、又は行使の目的で人に交付し、若しくは輸入した者も、前項と同様とする。

法定刑の上限は無期懲役。これらが国家的法益ないし社会的法益を侵害する重大な犯罪であることは誰でも知っているであろう。もちろん刑法には故意犯処罰の原則があるから、過失により偽造通貨を使ってしまった場合には処罰されない。普通の考えならね。さて、「故意も過失も関係ない」とした場合、いったいどうなるだろうか。

甲が買い物に行き、レジで代金を払い釣り銭として千円札を一枚受け取った。帰り道で、かねてより欲しがっていた品物を見つけ、購入しようとした。代金を払う際、先程釣り銭として受け取った千円札を、それが真正な千円札かどうかを確認せずに店員に渡したところ、それは偽造千円札であった。甲の罪責について述べよ。

toyoさんは、上記のケースで「偽造通貨行使の過失犯だから一生刑務所に入っていなさい」と言われてもじたばたしないそうだ。死刑でもじたばたしないのだから、無期懲役ならなおさらだろう。真に潔い。潔いが、その潔さはtoyoさん一人で十分


(補足)
ちなみに、上記の例で、手に入れた後で偽札だとわかり、それでもあえて使った場合は以下の罪が成立します。

(収得後知情行使等)
第152条 貨幣、紙幣又は銀行券を収得した後に、それが偽造又は変造のものであることを知って、これを行使し、又は行使の目的で人に交付した者は、その額面価格の3倍以下の罰金又は科料に処する。ただし、2千円以下にすることはできない。

見ての通り、148条2項違反と比べれば法定刑が格段に軽いですが、理由は言わずもがなですね。でも刑まさんなら「偽札を作ってばらまいても、『知らずに手に入れた』といえば罰金刑ですむのか!」とでも言うのかな。