懲戒請求その2

弁護士の懲戒請求を、懲戒事由がなく、きちんと調べればそれがわかったにもかかわらず行った場合は、不法行為となり得る。その場合、対象弁護士に損害を与えたならば損害賠償の必要も出てくる。今回の光市弁護団に対する懲戒請求にはテンプレートサイトを使って行われたものがかなりあるそうだ。このテンプレートに書かれた懲戒事由なるものが、実際にはなんら懲戒事由にはあたらないことは調べればすぐにわかることであり、テンプレートを使った(もしくはテンプレートに書かれた内容と大差ないことを書いて送った)人は、法的責任を問われる可能性がある。

とはいえ、今回の場合は直ちに責任を問おうとするのは、ちと酷に思う。橋下弁護士の煽動騒動があるからだ。
橋下弁護士の肩書きは弁護士、法律の専門家である。その専門家がテレビで「全国の人ね、あの弁護団に対して、もし許せないとい思うんだったら、一斉に弁護士会に対して懲戒請求を立ててもらいたい。懲戒請求っていうのは誰でも彼でも簡単に請求を立てられますんで、何万、何十万という形で、あの21人の弁護士の懲戒請求を立ててもらいたい。2件3件来たって大あわてになる。1万、2万とか10万人くらい、この番組を見ている人が一斉に弁護士会に行って懲戒請求をかけてくださったら、弁護士会の方としても、処分を出さないわけにはいかない(*1)」と煽ったのである。ただ感情に流されるだけで、冷静に物事を考えられない人が煽られて懲戒請求を出してしまったとしても、仕方ない面があるだろう(とはいえ、そのテレビ番組ってバラエティ番組なのだが)。となると、そういった人たちがいる可能性を考慮して、いきなり法的責任を問うのではなく、懲戒請求者に対して釈明を求め、自身の誤りに気づいて取り下げをした人たちは不問にするのが大人の対応というものだろう。実際に今枝弁護士が懲戒請求者に対して釈明を求め、その釈明に応じて請求を取り下げた人もいるようである。橋下弁護士に煽られたわけではないという人や釈明しない人がいたら、そこではじめてその人の法的責任を問うべきである(それでも問わないという選択肢もあるが)。
ところが何故か、この今枝弁護士の求釈明を「恫喝」とか「脅迫」とか受け取る人もいるようである。

正直、今枝弁護士からの「求釈明書」を読んだとき、
これは「脅迫」されているなと感じました。
おちょくった弁護士に「アホか」と言える権利を行使しただけなのに、
「釈明させたろかワレ」的な今回の今枝弁護士の所業。
橋下弁護士は、この今枝はまだまともになるかもしれない、
と思っていたよう(以前のエントリから推測)だが、「不治の病」とあきらめたようだ。
ぼくは橋下弁護士が推奨したから懲戒請求したのではありません。
彼は「アホか」と言うことができるという事実を教えてくれたに過ぎません。
普通にそれを行使した、税金も年金もまじめに納めている国民が、ぼくです。
そんな一国民を脅迫する弁護士はどうかと思いますね。

懲戒請求は単なるクレームではない。「アホか」と言いたいだけなら弁護士苦情窓口にでも言えばいい。そんな理由で懲戒請求したのならば、釈明を求められるのは当たり前である。それとも、いきなり法的責任を問われた方がいいというのか。

ちなみに、橋下弁護士も以下のように書いている。

さらに、この文書は懲戒請求制度に対する重大な挑戦で、こんな弁護士の横暴を認めていては、一般市民からの懲戒請求を過度に委縮させ、弁護士の非違行為を止める手だてがなくなります。
文書自体も「脅迫」にあたり得ます。
この今枝弁護士からの求釈明書に対する対応ですが、無視して下さい。

彼としてはこう書くしかないだろう。「橋下弁護士に煽られました、申し訳ありません」なんて釈明されたら困る。彼にとって、「橋下弁護士が推奨したから懲戒請求したのではありません」と言い切ってくれる人は神様だろう。
悪いことは言わない。懲戒請求を出した方、橋下弁護士の言い分を信じるかどうかは真剣に考えたほうがいい



(*1)…たかじんのそこまで言って委員会/よみうりテレビ 5月27日放送