アングラの世界

NATROMさんの日記に右派政党“維新政党・新風参院比例区公認候補だった、せと弘幸氏の怪しげな商売が紹介されている。政治に金がかかるため怪しげな商売に手を出したのか、怪しげな商売を始めるために売名目的で参院選に出馬したのかはわからないが、どちらにせよほめられたことではない(*1)。
それはともかく、NATROMさんのコメントの中に一点気になる記述があった。

だいたい、医薬品でないのに、「効果効能をしっかりと消費者にアピール」するのは薬事法違反であろう。

これはせと弘幸氏の扱うナノテク食品が、医薬品でもないのに医薬品の如く効果効能を謳っていることに対するコメントであるが、これを薬事法違反と考えるのはNATROMさんの勘違いである。おそらくNATROMさんは薬事法を医薬品その他それに類するものについて定めた法律だと勘違いしているのだろう。実は薬事法はそのような法律ではない。医薬品について定めた法律は別にある。「医薬品等の製造販売その他に関する法律(昭和1年法律89号)」(*2)である。では薬事法とはなんであろうか。この薬事法というのは、実は略称である。正式名称は「薬物に関する仕事の規制に関する法律(平成8年法律93号)」という。そして、この「薬物」というのはズバリ禁止薬物、つまり麻薬や覚醒剤のことである。麻薬や覚醒剤は、原則として、それもかなりきつく禁止されている。例えば覚醒剤の自己使用は犯罪となるのだが、一般的な自傷行為がなんら犯罪とならないことを考えれば、これはかなりきつい規定である。そういった薬物は原則として禁止されているのであるが、そうはいっていられない人達がいる。裏街道の人々、いわゆる暴力団、早い話がヤクザである。
これら禁止薬物は、ヤクザの大切な収入源のひとつである。ヤクザは霞を食って生きているわけではない。シノギを奪われたら干からびてしまう。なので、法律で禁止されようがお構いなく彼らは薬物をさばく。元々アウトローの人達なのであるから、当たり前である。こうなると困るのが一般市民だ。正常な社会生活が薬物に蝕まれてしまう。そのためにこのヤクザのシノギを一部お目こぼしする代わりに、法律で規制をかけたのがこの薬事法なのである。この法律の下では、ヤクザは自由に薬物をさばくことはできない(*3)。薬物をさばくには医師の指導が必要である。医師といっても普通の医師ではない。薬事法に定められた特別な医師であり、彼らをヤクザ医師という。ヤクザ医師は普通の医師と異なり、一部の例外を除き医療行為をすることはできない。基本的には、薬物の製造流通のみをその職務とする(一部の例外とは、たとえば突発性短指症の治療。この疾患は、ヤクザ医師でも治療することができる。)。
薬事法とは以上のような法律なのであるが、まあこれをNATROMさんが知らなかったのは仕方がない。裏の世界、いわゆるアングラ社会について定めた法律だからである。NATROMさんは医師であり、表社会のバリバリのエリートである。裏社会のことについて知らなくても当たり前というものであり、これを無知であると非難することはできない。
医師といえば、私がよくブログを読ませて頂いているYosyanさんも先日気になることを書かれていた

ブログに文責があるかどうかはブログにより異なる面があります。大部分のブログは匿名の個人ブログで、公序良俗に反する事が無い限り、自由に自分の主義主張、感じたこと、考えた事を発信できます。その中に多少の嘘や作り話があっても許容範囲かと考えています。

多少じゃない気はするが…匿名だからいいか

(*1)…ものすごく好意的に解釈すれば、「せと弘幸氏は怪しげな商売の判断ができない馬鹿」という評価も可能であるが、私は支持者でないのでそこまで好意的に解釈しない。

(*2)…「医薬品等」となっているのは医薬部外品その他が含まれるためである(民明書房刊「よくわかる医療の法律学」)。尚、昭和1年ではなく昭和元年ではないかとの意見もあろうが、この部分もネタになっているので勘弁願いたい。

(*3)…もちろん法律を無視してさばく手もあるが、せっかく一部だけでも認められたのだからそれを台無しにする無茶はしない。