久しぶりの受診

久しぶりに病院へ行ってきた。健康だけが取り柄の私だが、二ヶ月ほど前から右の一の腕にズキズキとした痛みを感じるようになってきたのだ。一の腕とはどこかと聞かれそうだが、つまり肩から肘にかけての部位である。それは二の腕ではないかと言われそうだが、本来は一の腕が正しい。肩から肘までが一の腕、肘から先が二の腕というのが本来の用語である。
ともかく、ちょっと着替えるだけでもつらいぐらいに痛むようになってきたので、勇気を出して病院に行くことにした。病院に行くにあたって、大事なのは病院選びである。一の腕が痛いのに眼科に行ったら相手も困るだろう。しかし、一の腕の痛みは何科に行ったらいいのだろう。こんな時に面倒くさがって総合病院に行こうとするのは愚か者のすることだ。きちんと近くの診療所から選ばないといけない。じゃあ行ってきたのは病院じゃなくて診療所なのかと言われそうだが、あえて病院と書くのにはちゃんとした理由があるので勘弁願いたい。
てなわけで近くの病院を調べたのだが、幸いなことに自宅から歩いて5分のところにある診療所に一の腕科があった。なんと、一の腕科がある病院は日本でここだけらしい。私はなんと運がいいんだろう。
すぐに家を出て病院に向かった。受け付けに一の腕が痛くて診てほしいことを告げる。
「当院は初めてですかあ?」
「はい、そうです。」
「では、保険証をお願いします。」
しまった。普段病院に行かないものだから、保険証というものが必要なのを忘れていた。いけないいけない。幸い家が近いので取りに戻って事なきを得たが、初診なのにそんなものを忘れてはいけない。初診忘れるべからずである。
受け付けをすませ待合室で待っていると、ほどなく名前を呼ばれた。診察室に入って先生に診てもらう。先生は私の一の腕を触りながら、カルテにいろいろ書き込んでいる。私は感心して言った。
「すごいですね。触るだけでいろいろわかるんですね。」
「ええ、触診は診察の基本ですからね。これを忘れて医師はできません。触診忘れるべからずと言いまして。」
すみません先生、そのネタさっき使いました。
「ではレントゲン室に行ってレントゲンを撮ってきて下さい。首と肩の辺り。」
痛むのは一の腕なのにレントゲンは首と肩が必要らしい。なかなか医学というのは難しい。
レントゲン室に行くと、技師の先生が準備して待っていた。言われるままにレントゲンを撮ってもらう。しばらくすると写真があがってきた。技師の先生がレントゲン写真を見ながら難しい顔をしている。私は不安になって聞いた。
「どうしました?何か写ってますか?」
「見てください、ここに…」
なんだなんだ、何が写っているのだ?
「平家の落ち武者の霊が!」
ひいい!そんなものに取り憑かれていたとは!
「冗談です。診察室に戻って下さい。」
ああびっくりした。あわてて診察室に戻ろうとすると、技師の先生に呼び止められた。
「ちょっとちょっと、写真持って行って下さい。」
いかんいかん、レントゲンを撮りにきて写真を忘れては何にもならない。写真忘れるべからずである、って同じネタを三回も使うな。
レントゲン写真を手に診察室に戻る。先生が写真を見ながら説明して下さった。首や肩の血行が悪くなると一の腕に痛みがでるそうである。私の場合、レントゲン写真で見た限り関節に異常はないから、運動して血行を良くすれば良化するらしい。
いくつかのアドバイスと薬を貰って私は病院を後にした。やはりこういう時、病院は頼りになる。と同時に、できるなら病院とは無縁の、健康な身体でいたいなあという思いを強くした。
病院の先生だって忙しいのだ。頑張って身体に気をつけて、病院に行くのは嫌だと思い続けられるようにしたい。病院嫌の如しである、ってこんなオチをつけるためにわざわざ診療所を病院と書いたのか私は。

追伸
腕の痛みはまだ続いています。ほんと、自動販売機の釣銭を取るのにも苦労するぐらい。こういうのってマメに診て貰わないとダメなんでしょうか。