国民が声を上げないとどうしようもないのだが

多くの医師が不当逮捕、不当起訴だと糾弾している福島大野病院事件公判はすでに論告が終わっている。内容は以下のページで確認できるので確認していただきたい。

この裁判において、被告人は取り調べ段階と公判段階で供述を変遷させているのだが、これについてYosyanさんが以下のように述べられている。

別に強調するほどのものではありませんが、拘置所に監禁し連日長時間の尋問を受けたら誰だっておかしくなります。心理的精神的な拷問と同じなのですが、その時の供述と平静を取り戻した時の相違が検察は許せないそうです。

取り調べ時には本当のことを話し、公判になって一転ウソデタラメを並べる被告人もいるわけだから、公判段階の供述が一方的に正しいと決め付けるのは問題だが、長期間の身柄拘束及び取り調べの問題に関しては同意するところである。この「身柄拘束を行い、自白しなければ保釈を認めない」という手法は、俗に「人質司法」と呼ばれている。勾留されて喜ぶ人は極めて少数派だから、本当は無実であっても早く身柄を解かれたいがために捜査機関側の言うがままに供述してしまう人がいてもおかしくない。保釈を認めるか認めないかは裁判所の判断だから、これには裁判所も絡んでいる訳で、根は深い。このような状況は国家権力には非常に都合がいいので、それを改善するには国民の声が重要なのだが、「犯罪者だと疑われた人間には何をしてもいい」と考える人が多い現状では難しいだろう。
さてここで、捜査機関側に都合のいい供述をしなかったために被告人が300日近くも勾留され、一審で無罪判決が出た事件を一つ紹介しよう。容疑は強制執行妨害罪。被告人は、あの安田弁護士である。
安田弁護士は1998年12月6日、「顧問会社の強制執行妨害を指導した」との容疑で逮捕された。その顧問会社は、強制執行を逃れるために所有している不動産の賃貸人の地位をダミー会社2社に移転し、テナントらに対し賃料等約2億円をダミー会社の銀行口座に振込入金させたとされ、その指導を行ったのが安田弁護士とされたわけである。しかし安田弁護士は被疑事実を認めなかった。賃貸人の地位移転について指導したのは事実だが、これはきちんとした「分社サブリース構想」であり、強制執行を妨害する意図のものではない。債務超過に陥っている会社の再建策として正当なものである。移転先会社の片方は、確かにダミー会社であり、検察官の主張通り約2億円を隠匿していた。しかしこれは安田弁護士はもとより顧問会社社長すら意図していないものである。実はこのお金はその顧問会社の従業員が退職金名目に横領していたのだ。
この横領の事実を検察官は把握していたが、裁判では最初は黙っていた。それを見つけ明らかにしたのは、安田弁護士本人である。安田弁護士は、獄中で、ろくな道具もないまま当該会社の経理資料を精査し、経理の不自然な部分をみつけ、従業員の横領行為を発見したのである。その従業員が公判で横領の事実を証言し、その後安田弁護士の保釈は認められた。日付は1999年9月27日。実に296日ぶりの身柄解放である。
2003年12月24日、上記事件の判決公判があり、安田弁護士に無罪が言い渡された。その公判において川口裁判長が最後に述べた言葉をここに記しておこう。

最後に前に出て下さい。平成10年12月25日、その日に、あなたは当裁判所に起訴されました。本日でちょうど満5年ということになります。訴訟の最終段階におきまして、裁判長の交代ということで結審が少し長引きご迷惑をおかけしました。私は私なりに事件の解明に努力したつもりです。いろいろ話したいこともありますけれども、中途半端に余計なことを入れることはやめておきましょう。
今度法廷でお会いするときには、今とは違う形でお会いできるということを希望します。最後にもう一度主文を読みます。
本件各公訴事実につき、被告人は無罪。
言い渡しを終わります。

この無罪判決を受けて、検察側は2日後に控訴し、現在では東京高裁で控訴審が行われている。その判決公判の予定日は4月23日。奇しくも光市母子殺害事件差し戻し審判決公判予定日の次の日である。